かたがみ木工ラボとは?
01かたがみ木工とは?
かたがみ木工は、やわらかい杉の板、材料を正確に切り出すための型紙、市販のノコギリ、この3つのアイテムを駆使することで、誰もが簡単に椅子やテーブルを自作できるようになることを目指す、新感覚のDIYです。
電動工具や接着剤、塗料を使わなくて済むので、騒音や粉じん、臭いの心配が少なく、マンションなどの限られたスペースでも家具を手作りすることができます。
椅子やテーブルを自作しようとする際、まず心配なのは強度です。「かたがみ木工」で販売しているキットは、構造がきちんと考えられているので、型紙で印をつけた通りに部品を切り出し、組み立てれば、普段使いには十分な強度が保たれます。
ノコギリで材料を切り出すのは、大変そうに思えますが、使用するのはやわらかい杉の板。正しいフォームさえ身につけば、サクサクと思いのほか楽にカットできるはずです。
組み立てには木ネジを使います。杉の板は、キリで下穴をあけておけば、家庭にある手動式ドライバーで木ネジを固定できます。接着剤は使わないので、使っているうちに材料がはがれてくる危険性が少なくなっています。
この「かたがみ木工」、じつは1950年代の日曜大工の本がベースとなっています。電動工具も木工ボンドも合板も一般的ではなかった時代に、必要最低限の大工道具と、安価な建築資材だけで家具を手作りできないだろうか…あるデザイナーたちの実験的な取り組みから生まれました。
02かたがみ木工のルーツ
「かたがみ木工」で紹介しているDIY家具は、1953年に雄鶏社から出版された日曜大工の本『アイディアを活かした家庭の工作』がヒントになっています。
著者は、KAKデザイングループに所属する工業デザイナーの3人(秋岡芳夫、河潤之介、金子至)。ホームセンターも電動工具もなかった時代に、当時どの家庭にもあったシンプルな大工道具と、材木店で売られていた安価な建材(貫板)を駆使し、ミニマルで機能的なDIY家具を書籍を通じて提案しました。
原著出版当時は、KAKデザイングループによる日曜大工の講座が、テレビや婦人雑誌などで企画されるなど、主婦を中心に好評を博しました。
発行元の雄鶏社は、手芸専門の出版社とあって、『アイディアを活かした家庭の工作』には、裁縫で使うような原寸大の「型紙」が付録になっていて、図面を読めない人でも、部品の加工ができるように工夫されていました。
KAKデザイングループについて
秋岡芳夫(1920-1997)、河潤之介(1919-2013)、金子至(1920-2013)の3人によって、1953年に設立された工業デザイン事務所。KAKは3人の名前の頭文字にちなむ。メンバー全員が代表取締役というフラットな組織で、それぞれの持ち味を生かしながら、個性的な工業製品を生み出した。また、3人ともデザイナーでありながら木工にも精通しており、『家庭の工作』発表後は、日曜大工に関する雑誌連載やテレビ出演が相次いだ。3人がKAKを離れた後は、所員が会社を引き継ぎ、1990年代まで活動は続いた。(写真提供:モノ・モノ)
03かたがみ木工ラボのミッション
昭和30年代まで子供や婦人服は家庭で誂えるものでした。本棚や収納箱などの、ちょっとした家具も同じ。たいていはノコギリを使って手作りしていました。
工業化社会になり、大量生産品が主流になると、そうした生活技術はまたたく間に衰退し、衣服や家具は作るものあ買うものになりました。いまや家庭で作るものといえば料理くらいですが、それすら危ぶまれています。
生活技術の喪失が環境問題を生み出すことを真っ先に警告したのは、工業デザイナーの秋岡芳夫(かたがみ木工の生みの親のひとり)です。彼は著書『割りばしから車まで』の中で、真の愛用は「自分で工夫して自分の手でつくる」ことから生まれると説き、「消費者をやめて愛用者になろう!」と訴えかけています。
自分で作った物を自分で使って見ながら、不具合なところを見つけ、こうしたらいい、ああすればいいと、あれこれ考えて見て、考えがどうやらまとまったら、早速もう一つ作ってみて、工具も気に入らなければ改良して使い、ああうまく出来たぞと喜び、うれしかって使っていると、他人がそれを見て、同じ物が私も欲しいと言えば、さらに改良したものを作ってやり、と、私が人間の物づくりの原型と考えている物づくりは、ちゃんと人の心や頭や手のうごきがうまく丸い円を描いているのです。
秋岡芳夫『割りばしから車まで・増補版』(モノ・モノ文庫)
生活技術としての日曜大工を取り戻す最初の一歩、それが私たちが目指す、かたがみ木工です。
大沼勇樹(DIYデザイナー・グループ モノ・モノメンバー)
04かたがみ木工ディレクター
大沼勇樹おおぬま・ゆうき
グループ モノ・モノメンバー
DIYデザイナー。1987年山形県生まれ。千葉大学工学部デザイン工学科(現デザイン学科)卒業。東京都立城南職業能力開発センター・木工技術科で家具製作を学ぶ。2013年に「使う人と一緒に考えながら、ものづくりを楽しむ」をテーマに“gyutto design”(ギュットデザイン)を設立。DIYサポート、ワークショップを通じて工作の楽しさを伝える活動を続けている。『杉でつくる家具』では作品製作・工程解説・撮影を担当。